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福岡家庭裁判所大牟田支部 昭和53年(家)47号 審判

申立人 阿久根信夫(仮名) 外一名

主文

申立人らの氏「阿久根」を「高井」に変更することを許可する。

理由

1  申立の趣旨及び実情

申立人らは、主文同旨の審判を求め、その実情としては、昭和三一年三月一日、申立人阿久根信夫(以下「申立人信夫」という。)は亡高井和夫、高井ヨシ子との間に養子縁組をしたが、理由あつて昭和五二年一月三一日養母高井ヨシ子との養子縁組を解消したので旧姓「阿久根」の氏に復して戸籍が作成された。しかし、これまで二二年間も養親の氏「高井」を使用していたため、これを変更することは社会生活上多大の支障があるので、この際「阿久根」の氏を「高井」に変更することの許可を求める、というにある。

2  当裁判所の判断

申立人らの各戸籍謄本及び申立人らに対する審問の結果によれば次の事実が認められる。

(1)  申立人信夫は、昭和三一年三月一日、亡高井和夫、同人の妻高井ヨシ子との間に養子縁組の届出をし、同日、亡高井和夫、ハルミの長女である申立人阿久根晃子との婚姻届をした。

(2)  その後申立人らの間に子供ができ、そのころより養親らとの間がうまくいかなくなり、養親らと別居するに至り、その後離縁を思い立つたが、亡高井和夫が高血圧症のため病床に臥し、一五年間余りその状態を続けていたため、延び延びとなつていたところ昭和四九年ころ亡高井和夫が死亡したので、その法事のすんだ昭和五二年一月三一日養親高井ヨシ子と申立人信夫との離縁届をした。

(3)  その結果、申立人信夫は旧姓の「阿久根」の氏に復して申立人らの戸籍が作成されたため、申立人らの子供である宏一、清二と氏を異にすることになつたばかりでなく、保険証、免許証、土地家屋の登記の記載変更をしなければならないなど、社会生活上多大の支障をきたしている。

(4)  申立人らが氏を高井に変更することについては、子供らや申立人らの親族も了解している。

ところで、離婚においては、民法七六七条二項の規定により、離婚の際に称していた氏を離婚後も称することができるようになつたが、このことは当然離縁の場合にも問題となるところである。従つて、本件のように、長期間養親の氏を称してきた結果離縁により養子縁組前の氏に復したことが社会生活上多大の支障をきたす場合には、離縁復氏後に、離縁の際に称していた氏に変更を求めることは、特別の事情が認められない限り、戸籍法一〇七条一項の「やむを得ない事由」に該当すると解するのが相当である。

よつて、申立人らの本件申立は理由があると認められるので戸籍法一〇七条一項の規定により主文のとおり審判する。

(家事審判官 井上弘幸)

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